40Hzの音で脳が変わる?MIT研究が示した“音の医学”の未来

ある特定の「音」が、脳の病に介入し、記憶障害の改善や老化による脳の変性を抑制する可能性があることが、最先端の神経科学によって報告されています。

その音とは、40Hz(ヘルツ)

一見すると地味な低周波ですが、脳内では「ガンマ波」と呼ばれる特別な活動と一致する、重要なリズムです。

なお、当初の研究では光と音の両方の40Hz刺激が使用されていましたが、
2019年に発表された続報研究では「音のみ」の刺激でも顕著な効果が確認されました。 特に、記憶を司る脳の“海馬”領域でアミロイドβの減少が観察され、
音刺激の持つ高い実用性と応用可能性が注目されています。

🧠 ヘッドホンやスピーカーだけで始められるという手軽さも、
40Hz音響刺激の大きな魅力の一つなのです。

ガンマ波と40Hz:人間の脳で何が起きているのか?

脳は電気で動いています。神経細胞(ニューロン)が電気的に活動し、それが脳波として測定されます。

この脳波には周波数帯によって名前があり、次のように分類されます。

脳波名周波数帯域状態
デルタ波0.5〜4Hz深い眠り・無意識
シータ波4〜8Hz夢うつつ・瞑想状態
アルファ波8〜13Hzリラックス・穏やかな集中
ベータ波13〜30Hz活動・注意集中
ガンマ波30〜100Hz高度な認知、記憶、意識統合

40Hzはこのガンマ波の代表値とされ、脳が「複数の情報を統合して認識する」際に特に重要だと考えられています。

この40Hzのリズムが乱れることは、アルツハイマー病などの神経変性疾患とも関係があると示唆されてきました。

MITの実験:マウスを使った「音の医学」の誕生

2016年、MITの神経科学者 Li-Huei Tsai博士らの研究チームは、以下のような革新的な実験を行いました。

🧪 実験内容(Nature誌に掲載)

  • 対象:アルツハイマー病の遺伝子を持つマウス
  • 手法:40Hzの視覚刺激(点滅光)および聴覚刺激(40Hzの音)を1時間×7日間与える
  • 測定内容
    • アミロイドβの蓄積(脳内の異常タンパク質)
    • 神経細胞の活動(ガンマ波の再構築)
    • ミクログリアの活性(脳の免疫細胞)

🔍 結果

  • アミロイドβが最大50%減少
  • ミクログリアが活性化し、異常タンパク質を“掃除”する働きが向上
  • 記憶行動の改善(迷路での学習効率の向上)

この成果は、薬を使わずに“音と光”という非侵襲的な方法で脳を回復させた初めての実証例でした。

📄 出典:
Iaccarino HF et al., Nature 2016

継続研究:人間への応用は?

MITではこの成果を受けて、2023年までに人間への応用実験に進みました。
特に**高齢者(軽度認知障害:MCI)**に対し、40Hzの視聴覚刺激を毎日与える臨床試験が進行中です。

👵 初期成果

  • 40Hz音刺激を1日1時間、数週間継続した被験者において:
    • 短期記憶テストの改善
    • 睡眠の質の向上
    • 脳波測定でガンマ波の再出現が確認

📄 詳細:
MIT News (2023年)

では、どうやって「40Hz」を使えばいいのか?

現在、40Hzの音は一般的なスピーカーやヘッドホンでも再生できます。

✅ 実践のポイント

方法内容
再生音源ピュアトーン(純粋な40Hz)またはバイノーラルビート音源
再生時間10〜30分からスタート(毎日継続が理想)
環境静かな場所、心地よく座って聞く
注意点長時間の連続使用は避ける、疲労感に注意

※特にバイノーラル音源では、40Hzを右耳・左耳で位相差再生することにより、脳内での立体的な共鳴が期待されます。

音による未来の医療は「静かに始まっている」

かつて音楽は「癒し」や「芸術」の領域にとどまっていました。
しかし今、科学者たちが**“音を医学に変える”**という視点で世界を見始めています。

音は薬にもなりうる。

その可能性を私たちは40Hzという、たったひとつの音から感じ取っているのです。

現状の整理:40Hz音刺激の科学的ステータス

現在までに行われた40Hzの音刺激に関する主な研究結果を以下に整理します。

研究対象 研究状況 成果・観察された効果
マウス実験 複数の査読付き論文で効果を確認済み ・1日1時間×7日間の40Hz音刺激により
・アミロイドβの減少
・ミクログリア活性化(脳の免疫細胞)
・記憶行動の改善
人間(高齢者) 臨床研究(予備段階・MITによる実施) ・音+光の併用刺激を1日1時間継続
・短期記憶テストの改善傾向
・睡眠の質の向上
・脳波(ガンマ波)の再構築

現時点では科学的根拠はマウスでの実験に基づいており、人間への応用は臨床研究の段階にあります。 しかしながら、初期の成果は極めて有望であり、今後の医学的応用に向けた研究が活発に進行中です。

この記事の執筆者

Kotaro — 音楽家 / 音響療法研究者 / Curanz Sounds 主宰

神戸市在住の音楽家。オープンリールやカセットテープなどアナログ機材による録音手法に精通し、独自の音響ヒーリングブランド Curanz Sounds を展開中。

近年は音による脳科学・周波数療法の研究にも力を入れており、海外の学術論文や臨床事例をもとに「音と癒しの接点」を一般向けにわかりやすく伝える活動を行っている。

自身の体験と研究成果をもとに、音響による未来の医療と心の回復を追求し続けている。

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