音が届くのは、あなただけ〜音のプライベートゾーン技術

音のプライベートゾーン

人が多い場所や静かに過ごしたい空間でも、音楽やヒーリングサウンドを楽しみたい——。

そんな願いを叶える「夢の音響技術」がいま、現実になろうとしています。

アメリカ・ペンシルベニア州立大学の研究チームが開発した「音のプライベートゾーン(Audible Enclave)」技術。

これは、ある特定の場所にだけ音を届ける仕組みで、その場所以外では一切音が聞こえないというものです。

しかもヘッドホンやイヤホンは不要。

まるで”音の結界”が張られたように、自分だけの音空間を持つことができるのです。

どうやってそんなことが可能になるの?

仕組みは最新の「超音波」と「音響メタサーフェス」と呼ばれる技術の組み合わせ。

超音波ビームが音を運ぶ

・通常のスピーカーでは音が広がってしまいますが、超音波は直進性が高く細いビーム状で飛ばせます。
・その超音波ビームを、特殊なレンズ(音響メタサーフェス)で曲げたり、障害物を避けて進ませたりすることができます。

音が聞こえるのは交差点だけ

・超音波ビームを2本、異なる方向から発射。
・その2本が空中で交わった地点だけで、人間が聞こえる音が生まれる仕組み。
・この交差点以外では、たとえ隣に人がいても音は全く聞こえません。

研究チームの実験で実証済み

ペンシルバニア州立大学の研究チームは、人間の頭の形をしたダミーにマイクを仕込んで実験。

結果

・音が聞こえるのは交差した一点のみ。
・数センチ横にずれると無音。
・壁や人の体が間にあっても、音は迂回して目的地に届く。
・音量は会話程度(約60dB)ながら、今後強化可能。

応用例がすごい! — ヒーリング音響の未来へ

この技術が進化すれば、私たちの日常や音楽体験は大きく変わります。
特にヒーリング音響の分野では、こんな活用が考えられます。

1. 瞑想スタジオやリラクゼーション空間

複数人が同じ空間にいても、それぞれが自分専用のヒーリング音を聴ける。
周囲は完全に静かなまま、音楽だけがそっと心に届きます。

2. 図書館やカフェでも音楽体験

公共の場でも周囲に迷惑をかけず、癒しの音楽や自然音を楽しめる。
空港の待合室、病院の個室、カフェなどにも導入可能。

3. 家庭用ヒーリングシステム

枕元にだけ音楽を届けて、家族を起こさず眠りにつく。
医療施設や介護現場でも、一人ひとりにパーソナルな音空間を提供。

クランツサウンズの未来

私たちヒーリング音響ブランド「Curanz Sounds(クランツサウンズ)」が目指すのは、音を使って心を整えること。

この「音のプライベートゾーン」技術も実用化の未来に向けて意識を向けておく必要がありそうです。


・「音の癒し」と「静けさ」を両立する空間。
・ノイズレスでプライベートな音響体験。
・世界にひとつだけの癒しの場所を、音で作り出す。

技術の実用化にはまだ時間がかかりますが、近い将来、クランツサウンズが提供するヒーリング空間が、より自由で豊かなものになるのは間違いありません。

クランツサウンズは、これからも「音の力」であなたの日常に寄り添う癒しを届けていきます。

もう少し専門的に・・・

音響メタサーフェスの物理的構造

音響メタサーフェスとは、通常の素材では実現できない方法で音波の振る舞いを制御できる人工構造です​。

本研究ではメタサーフェスを音響レンズとして用いており、ミリメートル〜サブミリメートルサイズの微細構造によって通過する超音波の進行方向に位相遅延を与え、音波を曲げる設計になっています​。

このメタサーフェスは3Dプリンターで製造された樹脂製の薄い板状レンズで、光学レンズが光を屈折させるようにを屈折・偏向させます​。

メタサーフェスによる精密な位相制御によって、超音波ビームに意図した湾曲(自己湾曲)を持たせることが可能になり、後述するように音波を特定の軌道に沿って誘導できます​。

ビームフォーミング技術と超音波の空間制御

本技術では2台の超音波トランスデューサ(超音波スピーカー)を使用し、それぞれの前面に上記の音響メタサーフェスレンズを取り付けています​。

各トランスデューサからは微妙に異なる周波数の超音波(例えば40kHzと39.5kHz)が発せられ、メタサーフェスを通過することでビームが外側へ湾曲した軌道を描きます​。

この湾曲ビームは一定距離進んだ後再び内側に曲がり、空間上の所定の一点で2本のビームが交差するように設計されています​。

各ビームは高周波で指向性が高く、さらにメタサーフェスによって指向性と経路を制御されているため、人の頭部などの障害物があっても回り込むように進行し、障害物の向こう側で合流することが可能です​。

このように物理的レンズによるビームフォーミングによって、従来のスピーカーでは不可能だった「届いてほしい場所でだけ音を発生させる」ことを実現しています。

実験装置の構成と検証方法

ペンシルバニア州立大学の実験ではダミーヘッド(頭部胴体シミュレータ)の両耳にマイクを内蔵し、後方に配置された2つの超音波トランスデューサ(青色の格子状パネル、メタサーフェス装着)から湾曲ビームを発射します。

バイノーラルマイクですね。

研究者は装置を調整しており、このセッティングで可聴音スポットの形成を測定。

研究チームは上記の装置で実際に音のプライベートゾーンが形成されることを実験で確認しました。

さらに、ビーム同士が交わる推定位置(エンクレーブ領域)に第三のマイクロフォンを細かく移動させて音場を走査し、その交差点でのみ音が聞こえることを検証しています​。

結果、2本の超音波ビームの交差点以外では音は全く聞こえず、交差した一点でのみ音声が検出されました​。

この現象を研究チームは「音のエンクレーブ(包囲地)」と呼んでいます​。

実験は一般的な室内(残響のある環境)で行われましたが、それでも不要な音の広がりや響きは生じず、システムが現実環境でも機能することが示されました​。

得られたエンクレーブ内の音量は約60 dB(会話程度)で、発生位置は音源から約1 m離れた地点に設定されています​。

なお、この距離や音量は現在のプロトタイプのもので、超音波強度を上げることで将来的に更に増加できる可能性があると報告されています​。

超音波ビームの干渉原理と可聴化メカニズム

本技術では差周波数の生成と呼ばれる非線形音響効果を利用しています。

2つの超音波ビームが空中で交差するとき、両者の相互作用によって周波数が差分の新たな音波が生み出されます​。

空気中では音波の振幅が大きい場合に媒質が非線形に振る舞い、ちょうど2つの信号が混ざり合って拍(ビート)を生じるように、低周波成分が発生します。

研究チームの実験では40 kHzと39.5 kHzの超音波を用いており、それらが交わった点で500 Hz程度の可聴音波が生成されました。

各ビームはそれ単独では人間の可聴域を超えているため全く音として感じませんが、交差領域では局所的な非線形相互作用により可聴周波数の音波が生み出されるのです​。

この原理自体は指向性スピーカー(パラメトリックスピーカー)が超音波のキャリアから可聴音を空中で発生させる仕組みと類似しています。

しかし本システムでは、メタサーフェスによって2本のビームが重なるのは空間的に限定された一点のみになるよう経路が制御されています​。

したがって可聴音はそのエリア(エンクレーブ)でのみ発生し、ビームが進む途中では互いに重ならないため音の「漏れ」が起きません​。

これにより、標的以外の場所では完全に静寂なまま、狙ったスポット内部でだけ音が聞こえるというプライベートな音空間の実現に成功しています​。

論文の主要な成果とデータ

最新の一次論文(PNAS掲載)では、上記技術の性能と有効性が数値的・実験的に示されています。

その要点を以下にまとめます。

  • エンクレーブの高局所性: 交差点に立つ人だけが音を聞くことができ、数センチ外れるだけでほとんど聞こえなくなるほど鋭い指向性を実現しました​。閉空間(車内など)や直接音源の正面に他人が立っていても、エンクレーブ外では音を感知できません​。
  • 障害物を迂回する音伝送: 自己湾曲する超音波ビームにより、人体などの障害物を避けて音を届けたい場所まで音波を誘導できます​。実験ではダミーヘッドで遮られた背後に音スポットを生成し、障害物越しのプライベート音響通信が可能であることを示しました​。
  • 超広帯域の音再生: 差周波生成の手法により125 Hzから4 kHzまでの約6オクターブにわたる広帯域の音声を再生可能です。この範囲は人間の可聴域の大部分をカバーしており、低音域(125 Hz付近)も含めて遠隔地に投射できる点が画期的です(従来は低音ほど拡散しやすい課題がありました)。
  • コンパクトな実装: 装置全体のサイズは約16 cm程度と小型で、例えば125 Hzの音波に対してわずか1/16波長程度の寸法しかありません​。それでも十分な音圧のスポットを生成できることから、将来的な実用デバイスへの小型化に有利です。
  • 実環境下での有効性: 通常の室内環境(反響のある空間)で音声や音楽など広帯域の過渡音を再生して検証したところ、周囲への音漏れなく安定して動作することが確認されています​。エンクレーブ内では音楽も明瞭に聴取でき、まさに“仮想ヘッドホン”として機能することが示されました​。

以上のように論文では、物理的な回折限界を打ち破る新手法によって「遠隔から届くプライベート音響スポット」を実現し、その**有用性(プライベート通信や没入型音響、音場の精密制御等)**をデータで裏付けています​。

現在の試作では音圧・距離にまだ限界(約60 dB・1 m)がありますが、これは超音波強度の向上で改善可能とされており​、音質のさらなる向上と併せて研究が進められています​。

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