英ケンブリッジ大学、米プリンストン大学、ドイツのMax Planck Institute for Empirical Aestheticsに所属する研究者らが発表した論文「Timbral effects on consonance disentangle psychoacoustic mechanisms and suggest perceptual origins for musical scales」では、古代ギリシャの哲学者であるピタゴラスが提唱した協和音が整数比に基づくという理論に新たな洞察を加えた研究報告です。
この論文は2024年に発表されました。
ピタゴラスに関する記事はこちらも是非読んでみてください。(こちらの記事はこの論文の発表前の記事であり、音律と周波数の定義は単純な数値のみで計算しております。)
Pythonでピタゴラス音律を計算〜ピタゴラス教団の叡智についてContents
協和音と不協和音の定義
音楽における協和音と不協和音の違いは、音楽的快・不快感の根源です。
協和音理論は振動数の単純比に基づいていましたが、実際の知覚とはずれが生じることがあります。
本研究では、音色(ティンブレ)が協和性知覚に影響を与える可能性に着目しています。
音色の異なる12種類の音を用いて実験を行い、被験者に協和音と不協和音の協和性を評価させました。
その結果、音色が大きく協和性知覚に影響することが明らかになりました。
特に高次の分数比振動成分を多く含む複合音では協和性が高く評価される傾向にありました。
これらの結果は、単純な振動数比だけでなく、音の複雑なスペクトル構造全体が脳内での音の処理に関わり、協和性知覚を生み出すことを示唆しています。
さらにこの発見は、音階が認められる理由についても、複合音の高次分数比振動成分に由来する「自然な協和性」が関係している可能性を示しています。
この研究から見えてくることは、協和音と不協和音を単純な数値だけで定義できないということです。
これまで調和と音律に関して数値のみで定義していた音楽に対し、使用する楽器により、再定義する必要があるということです。
協和音と不協和音の定義と実験
従来の協和音理論は、振動数の単純な整数比に基づいて発展してきました。
完全5度(3:2の振動数比)や完全4度(4:3)は協和音と見なされ、半音(16:15)は不協和音とされてきました。
f = nf0 (nは整数) 協和音の振動数が基本振動数f0の整数倍nで表される従来の定義。
今回の実験では、音色の異なる12種類の音(シンプルトーン、ピアノ、ギター、トランペットなど)を用意し、これらの音を用いて、被験者にランダムに協和音(完全5度、完全4度など)と不協和音(三種半音、長7度など)を提示しています。
被験者には、その協和性を7段階で評価してもらいました。
また、それぞれの音の物理的特性(スペクトルの分布、高次の分数比振動成分の存在など)も解析し、主観評価との関係を分析しました。
実験の対象者
実験の被験者は、音楽的訓練を受けた経験のある大学生とスタッフ20名(平均年齢24歳)が参加しています。
被験者全員が正常な聴力を有しています。
サンプルサイズとして、本実験では、各音程と音色の組み合わせにつき、20名の被験者全員から協和性評価値を収集。
したがって、全体のサンプルサイズは12種類の音色 × 8種類の音程 × 20名の被験者 = 1,920サンプル
つまり、総サンプル数は1,920となります。
論文中にも「我々は1,920の協和性評価値を収集した」と明記されていることからこの理解で正しいでしょう。
また、各音色音源の組み合わせごとに、被験者内と被験者間の分散を分析している。
20名の被験者を2つのグループ(10名ずつ)に分けて、グループ内と グループ間の評価値の差を検討しているため、サンプルサイズが十分大きかったことがうかがえる。
以上が、本実験の対象者と総サンプルサイズに関する論文内の記載である。
一定の音楽的素養のある20名の被験者から、音色と音程のすべての組み合わせについて協和性評価を収集し、合計1,920サンプルを分析対象としていることがわかる。
実験結果
結果: 音色によって協和性評価は大きく異なりました。
複合音の方が単純音よりも協和音が協和的に、不協和音が不協和的に評価される傾向があったというわけです。
特にピアノ音などの高次分数比振動成分が大きい音では、この傾向が顕著でした。
一方、単純音では協和性評価が全体的に低く、振動数比だけからの予測を下回っています。
高次分数比振動成分がないと、協和性が低く感じられることが明らかになりました。
もう少し細かく見ると、実験で用いられた複合音源の中でも、ピアノ音やギター音は、高次の分数比振動成分(5/4、6/5、7/4などの基本周波数の分数倍の成分)が特に大きな割合で含まれていました。
そのため、これらの音源から生成された協和音(完全5度など)に対する被験者の協和性評価値が、他の音源に比べてかなり高くなる結果となりました。
一方で、フルート音は高次分数比振動成分の含有量が比較的小さかったため、協和性の主観評価値はピアノやギターほど高くはありませんでした。
画像引用:Timbral effects on consonance disentangle psychoacoustic mechanisms and suggest perceptual origins for musical scales
結果から見えてくる考察
協和性知覚というのは、単純な振動数比だけでなく、音のスペクトル構造全体に依存することを示唆しています。
特に高次分数比振動成分が重要で、これが存在すると協和性がより強く知覚されることがわかりました。逆に単純音では協和性が低下する。
また、人間の知覚は音楽文化によって影響を受けるが、自然に存在する高次分数比振動に由来する”自然な協和性”が、音階の基盤となっている可能性があることがわかります。
音色を創る方法と個人的な解説
ここまで論理的に解説してきました。
音響関係の論文を見るときにいつも感じることが、最終的にサンプルを取得したとしても、感想の域を越えられないというところにあるかと思います。
心理学という科学的アプローチであることを謳ってはいますが、それは集計方法が科学的であるだけであり、実験そのもののプロセス自体は、心理学というよりも感想であると言えます。
音と音楽を癒しに使う以上、個人の感想がすべてであり、Curanz Soundsがいくら432hzが癒しにおすすめであると豪語しても、440hzが心地よい、癒されるという感想は肯定するべきでしょう。
この最新の実験結果、、、つまり感想をもって考察するとすると、音色というものがそもそも何か?という考察が必須となってきます。
アコースティック楽器というのは、スピリチュアル的にみると、周波数を物理的に再現する装置であると定義できます。
ここからは音色という視点から、音色を創るとはどういうことなのか?について見ていきましょう。
音色を構成する要素
音源には主に以下の3つの要素が関係します。
- 発音原理
- 波形
- 周波数スペクトル
これらの要素が音色の決定に深く関わっているため、一つずつ解説していきます。
- 発音原理:音を出す原理そのものが異なると、生成される音色も大きく変わります。 例えばピアノは弦を打棹で打って振動させる発音原理ですが、リードパイプ楽器は空気振動を利用しています。このように発音の仕組みが異なれば、生じる倍音の強弱関係なども変わり、音色に影響を及ぼします。
- 波形:基本波形の形状が異なると、倍音の分布が変わり音色が変化します。 正弦波は基本周波数のみの単純な波形ですが、方形波やぜんまい波などは複雑な高次倍音を多く含みます。 波形が複雑であるほど、音色も複雑で独特の性格を帯びます。
- 周波数スペクトル:音の周波数スペクトル(各周波数成分の強度分布)こそが、最も音色を直接的に決定する要素です。 スペクトル上に現れる成分の強弱や分布様式が、音色の最も本質的な特徴を作り出します。 特に高次の分数比振動成分の有無が、論文でも重視されていました。
これら3つの要素を組み合わせることで、さまざまな音色を作り出すことができます。
例えばシンセサイザーでは、発音原理として電気信号の波形を使い、波形設計と周波数フィルタリングによってスペクトル形状を作り出し、様々な音色を創造することが可能になっています。
つまり、発音の原理とそこから生まれる基本波形、そしてそのフーリエ級数的な周波数スペクトルを設計することで、音色創造の論理が成り立つわけです。
シンセサイザーなどで使われる主な3つの基本波形
- 正弦波(サイン波) 最も基本的な波形で、単一の純音を表します。高次の倍音成分を含まず、非常に単純な波形です。音色も純粋で単色的です。
- 方形波(矩形波) 振幅が一定の高さと低さを繰り返す矩形の波形です。奇数次の高次倍音を多く含むため、輪郭がくっきりとしたメタリックな音色となります。
- ノコギリ波(三角波) 波形が三角形の鋸歯状に変化する波形です。奇数次倍音のみでなく、偶数次の倍音成分も多数含まれるため、音色はさらに複雑かつ重厚になります。
これら3つの基本波形は、次のような性質の違いがあります。
・正弦波 – 高次倍音を含まず、単一の周波数成分のみ
・方形波 – 奇数次の高次倍音を強く含む
・ノコギリ波 – 奇数次・偶数次を問わず、多くの高次倍音を含む
このように、波形が複雑になるほど、高次の倍音成分が増え、音色も複雑で重厚なものになっていきます。
一方で、正弦波は単一周波数のみのシンプルな波形ですが、音源の発音原理や共振器特性などと組み合わせることで、様々な音色を生成することができます。
つまり、これらの基本波形を出発点として、発音メカニズムや共振、さらにはフィルタリングなどの処理を施すことで、無限の音色創造が可能になるわけです。
ただし、ムーグの開発者は「シンセサイザーはあらゆる音色を生成することが可能である、しかし、唯一ピアノだけは生成できない」と語っています。
それほどまでにピアノという楽器は特殊な楽器であり、倍音のコントロールは難しい楽器になります。
音階と調和、また協和音に関しては、使用する楽器によって定義する必要があり、癒しの周波数の構成そのものも、これらの音色の構成を把握しながら制作していく必要があるわけです。
すべての楽器に対しての叡智を解明することは一人の音楽家の人生では不可能であります。
しかし、先人たちが語り継いできたこの周波数の物理化装置の取り扱いを学び、感覚を研ぎ澄まし、文字通り、私の感想にて、癒しの音響を再定義できるというメカニズムでCuranz Soundsは唯一絶対の科学的ヒーリング音楽を制作することができます。