この記事を担当:音楽家 / 朝比奈幸太郎
1986年生まれ
音楽大学で民族音楽を研究。
卒業後ピアニストとして活動。
インプロビゼーション哲学の研究のため北欧スウェーデンへ。
ドイツケルンにて民族音楽研究家のAchim Tangと共同作品を制作しリリース。
ドイツでStephan Desire、日本で金田式DC録音の五島 昭彦氏から音響学を学ぶ。
録音エンジニアとして独立し、芸術工房Pinocoaを結成。
オーストリア、アルゼンチンなど国内外の様々なアーティストをプロデュース。
株式会社ジオセンスの小林一英氏よりC言語、村上アーカイブスの村上浩治氏より、写真と映像を学ぶ。
2023年からヒーリング音響を研究するCuranz Soundsを立ち上げる。
世界中に愛と調和の周波数を届けるため、癒しの音をCuranz Soundsにて発信中。
グレゴリオ聖歌、ミサなどをはじめとした西洋の教会では、音に対するこだわりが強いのも特徴です。
それはなぜか?
それは音という存在そのものがこの宇宙の根本原理を司っているからです。
おそらく、人類にとって大きな叡智が時代とともに失われている現代からは想像もできないことが当たり前に起こっていたのが教会です。
例えば、儀式や礼拝に参加すると、病気が治る、痛いところが治癒する・・・
といった奇跡は世界中で数えきれないほどの例を見ることができます。
ここが最も重要なポイントですが、「だからこそ、キリスト教は世界的に信者が増えていった」と言えるわけです。
本当に奇跡が起こるんだから・・・
というロジックです。
今、世界的に信仰や宗教が疎かにされていますが、それはなぜか?
ロジックは単純です。
世の中の人々が奇跡に遭遇していないからです。
奇跡に出会えていないから、神を信じる力が失われているというロジックです。
音の探究を進めていけば、そんな奇跡には簡単に出会えます。
本日はそんな数々の奇跡を起こした西洋式教会の音響特性について検証していきます。
Contents
教会建築の特徴
西洋の教会建築は、特に音響学的観点から見ると、非常にユニークな特徴を持っています。
これらの建築物は、音楽、とりわけ宗教音楽が重要な役割を果たす文化的なコンテキストで発展しました。
古代の時代から音、音楽というものは、神様に捧げるものであり、神事や儀式にとって欠かせない存在でした。
そのため、教会の音響は音楽演奏や聖歌の伝達を最適化するよう、そして音の持つ神秘の力を最大限活用するべく設計されています。
おそらく厳格な儀式を持つカトリック教会の一部では、最古の時代に周波数や音について伝えられていたはずです。
教会の特徴をまとめてみましょう。
- リバーブ(残響):教会の最も顕著な音響特性の一つは、長い残響時間です。これは、石造りやコンクリートなど硬い素材の使用、広大な空間、そして吸音材の少ない内装によって生じます。残響は、音が反響して減衰するまでの時間を指し、教会音楽に独特の広がりと響きを与えます。
- 音の分散:多くの教会は、音が均一に広がるように設計されています。これは、礼拝者がどこに座っていても、説教や音楽をはっきりと聞けるようにするためです。高い天井とアーチ形状は、音波の効果的な分散を促します。
- 音の明瞭さ:教会の音響設計は、言葉の明瞭さも考慮しています。残響が多すぎると、言葉がぼやけてしまうため、設計者はこのバランスを慎重に取ります。例えば、説教壇の周りに設置された反射板は、声を強化し、集まった人々に向けて直接音を反射させるのに役立ちます。
- 低周波の響き:大きな空間と硬い表面は、低周波数の音に富んだ環境を作り出します。これは、パイプオルガンのような楽器が生み出す豊かな低音が響き渡るのに理想的な環境です。
- 音響反射と拡散:教会の内部には、音波の反射と拡散を助けるために意図的に配置された彫刻や装飾がしばしば見られます。これらは、音響的にデッドスポットを減少させ、より均一な音響環境を作り出すのに役立ちます。
では、音の残響、そしてリバーブについてもう少し数学的にみていきましょう。
広さとリバーブタイム(残響時間)の関係についての数式または数学的な説明には、サーベンの公式が一般的に使用されます。
サーベンの公式は、部屋の残響時間を推定するために用いられる式で、音響学を学ぶものが必ず通る道になります。
今、デジタル化されたプラグインの内部処理にもこのサーベンの公式に基づいてシュミレーションされているわけです。
具体的にみていきましょう。
セイビンの法則で残響を認識
サーベンの公式は、アメリカの物理学者ウォーレス・クレメント・セイビンによって1900年頃に確立されました。
Wallace Clement Sabine 1868年6月13日 – 1919年1月10日)
画像の引用はwikipedia
ウォーレス・クレメント・セイビンは、ハーバード大学のフォッグ美術館の音響問題を解決するために、この公式を開発しました。
ウォーレス・クレメント・セイビンの公式はこのような式で表します。
ここで、
- TT は残響時間(秒)です。
- VV は部屋の体積(立方メートル)です。
- AA は部屋の吸音量(平方メートル・サーベン)です。
これは、部屋のすべての表面の吸音係数と面積の積の合計によって計算されます。
この公式では、部屋の体積が大きくなると残響時間が長くなり、吸音量が大きくなると残響時間が短くなることを示す非常にシンプルな公式になっています。
理想的な残響時間は、その空間や音、音楽の用途によって異なります。
例えば、音楽演奏に適した空間では、異なる種類の音楽や演奏に応じて、適切な残響時間が求められますし、音の神秘を追求する場合、特定の周波数(ソルフェジオ周波数でもよい)をより伸ばす、または倍音を混ぜる必要があります。
実際の残響時間を正確に計算するには、部屋の特定の条件や使用する材料の特性を詳しく分析する必要があります。
ではここから、吸音係数についてできるだけ定義していきましょう。
音の世界に完璧な定義は不可能であることを前提としてください。
吸音係数の定義
Aの吸音量(平方メートル・セイビン)ですが、吸音係数を定義する方法を考察してみましょう。
吸音係数は、ある材料が音波をどの程度吸収するかを示す指標となります。
この係数は、0から1の範囲で表され、0は全く音を吸収しない(すべて反射する)ことを、1は音を完全に吸収することを意味しています。
吸音係数は、材料の種類、厚み、取り付けられた背景、そして音波の周波数によって異なるところがポイントになって来ます。
吸音係数を測定する方法は、標準化された試験方法に従って行われます。
一般的な測定方法には、インピーダンスチューブ法や残響室法があります。
これらの方法は、特定の条件下で材料がどの程度音を吸収するかを評価します。
- インピーダンスチューブ法: 小さなサンプルを用いて、特定の周波数範囲での吸音係数を測定します。この方法は、材料の吸音性能を比較的簡単に評価できるため、研究や材料開発に広く使用されています。
- 残響室法: 大きなサンプルを使用し、部屋全体の残響特性の変化から吸音係数を算出します。この方法は、より実際的な環境での材料の性能を評価するために用いられます。
吸音係数は、以下の式で計算されることもあります:
ここで、
- αα は吸音係数です。
- AA は吸音量(セイビン)です。
- SS は材料の表面積(平方メートル)です。
部屋の全吸音量は、すべての表面材料の吸音係数とそれぞれの表面積の積の合計によって計算されます。
これにより、部屋全体の音響特性を改善するために、どのような材料をどの程度使用するかを決定することができます。
ただし、この測定自体は一般の家庭や市販の測定機器では十分ではないことを承知してください。
(根気よく制作すればプログラムを含めて自作で可能です。)
教会の要素と音響効果
- 高い天井と広いナーヴ(中央の廊下):教会の内部空間は一般に広く、天井が高いです。このような構造は、音が広がりやすく、長い残響時間を生み出します。高い空間は、音波が拡散し、混ざり合うのに理想的な条件を提供します。
- アーチとドーム:アーチ形状の天井やドームは、音波を反射し、教会内で均一に分散させるのに役立ちます。これらの形状は、音波を特定の方向に導くことで、特定の場所に音響的焦点を当てることができます。
- 硬質の表面材料:石やレンガ、コンクリートなどの硬質の材料で構築された教会は、音波の反射を促進します。これらの材料は吸音性が低く、音が壁から跳ね返ることで、リバーブを生み出します。
- 音響反射板と装飾:特に説教壇やアルター周りに設置される音響反射板は、声や楽器の音を集めて、より遠くまで明瞭に届けるために設計されています。また、彫刻や装飾が音の拡散を助け、デッドスポットを減少させます。
- 側廊と回廊:多くの教会には、本船(中央の船体)の両側に側廊があり、周囲を回廊が囲んでいます。これらの構造は、空間の音響特性に影響を与え、特定の音響効果を生み出すのに役立ちます。
- 音響設計に特化した改修:古い教会では、現代の音響学の知見を取り入れた改修が行われることがあります。これにより、音響特性が改善され、音楽演奏や言葉の明瞭さが向上します。
高い天井に関してはヴォールト天井という設計技術があります。
アーチを平行に押し出した形状を特徴とする天井様式や建築構造の総称であり、日本語では穹窿と呼びます。
ではこのヴォールト天井の設計はどのような構造になっているのでしょうか?
ヴォールト天井〜アーチ型の設計技術とは?
ヴォールト天井の設計は、建築と工学の分野で使用される複雑な数学的手法を必要とします。ヴォールト天井は、アーチ型の構造を複数組み合わせて作られ、空間に対して美的にも機能的にも優れた天井を提供します。その数学的設計には、幾何学、力学、そして場合によっては数値解析が含まれます。以下に、その基本的な数学的考え方を解説します。
幾何学的設計
ヴォールト天井の設計は、まず基本となるアーチの形状から始まります。
アーチは通常、半円形、楕円形、折れ線形(ゴシックアーチ)など、特定の幾何学的形状に基づいています。
これらの形状は、次の幾何学的方程式によって表されることがあります。
力学の考慮
アーチの形状が決まった後、その構造が受ける力と応力を計算することが重要になります。
これは、アーチが自重とその上にかかる荷重を支えられるようにするためです。
数値解析
複雑なヴォールト構造や不規則な形状の場合、その力学的挙動を正確に理解するために数値解析が必要になることがあります。
有限要素法(FEM)は、構造物を小さな要素に分割し、各要素での応力と変形を計算する一般的な方法です。
これにより、設計者はヴォールトが全体としてどのように振る舞うかを予測し、最適化することができます。
古代ローマ時代
実はヴォールト天井自体は、古代から採用されています。
この設計は、ローマ時代にさかのぼり、古代ローマの建築家や技術者によって開発され、広く利用されています。
特に、ローマのパンテオンやバシリカなどの公共建築物において、その効果的な構造と美的価値が評価され、有名となっています。
中世に入ると、ヴォールト天井はヨーロッパのロマネスクおよびゴシック建築において一般的になりました。
ゴシック建築におけるリブ・ヴォールトは、より複雑で装飾的な形状を実現し、建築の高さと空間の開放感を大きく向上させました。
この技術の革新は、12世紀から13世紀にかけてヨーロッパで発展しました。
世界最古の教会は?!
世界で最も古い教会として広く認知されているのは、ヨルダンのアンマン近郊にある「アクアバの聖ゲオルギオス教会」です。
この教会は、紀元3世紀末から4世紀初頭に建設されたとされ、キリスト教の礼拝のために特別に建てられた建築物としては最古のものの一つと考えられています。
別の重要な候補は、イスラエルのメギドにある教会の遺跡です。これも紀元3世紀から4世紀にかけて建てられたと考えられており、初期キリスト教の歴史において重要な発見の一つとなっています。
アクアバの聖ゲオルギオス教会やメギドの教会遺跡のような古代の教会では、建築の保存状態や当時の建築技術に関する限られた情報に基づき、その構造やデザインを推測する必要があります。
これらの教会の具体的な建築様式や構造に関する詳細な情報を知りたい場合は、考古学的な調査結果や専門的な研究資料を参照する必要があります。
教会の構造が音響に与える影響
それでは最後に残響による周波数特性の変化と倍音に与える影響について解説していきます。
周波数特性の変化
残響は、音が部屋の壁や物体に反射して複数回聞こえる現象です。
この反射により、音の周波数特性が変化することがあります。
部屋の形状、サイズ、内装材料によって、特定の周波数が強調されたり、減衰されたりすることがあります。
たとえば、硬い表面や平行な壁は低周波数の反響を引き起こしやすく、柔らかい材料や非平行な壁は高周波数の吸収に寄与します。
残響時間(RT60)は、音が初期レベルから60デシベル減衰するまでの時間を示し、部屋の「響き」を定量的に表すことができるわけです。
周波数によってRT60が異なるため、残響が周波数特性に与える影響も異なります。
理想的な残響時間は、その空間の用途や希望する音響効果によって異なります。
材質による音響の変化は音源の発信源によっても変化するわけです。
そのため、西洋音楽のステージで、「位置」を意識するのは非常に重要な要素となるわけです。
例えばピアノを例にしてみますと、筆者がピアニスト時代は、録音エンジニアと調律師と三人で、その会場の音響特性を徹底的に分析し、ピアノの位置を数センチ単位で変えていったものでした。
その数センチが周波数の維持、そして安定につながるポイントになってくるわけです。
倍音に与える影響
倍音は、基本周波数の整数倍で発生する周波数で、楽器の音色や声の特性を決定します。
残響が多い環境では、倍音の聞こえ方が影響を受ける可能性があります。
特に、残響時間が長いと、音が重なり合ってしまい、倍音の明瞭さが損なわれるリスクがあります。
そのため、昨今の音楽制作の現場においては残響、つまりリバーブ効果は極力抑える方向にまとめるのがセオリーともなっており、このリバーブを曖昧に使うと大切な倍音が維持できずに音響的には大変な混乱を招くことになります。
音楽演奏や歌声においても音色やハーモニーの聞こえ方に大きな影響を与える可能性があるため音響エンジニアは日々注視しているわけです。
一方で、適切な残響は倍音を豊かにし、音楽や声に深みや空間感を与えることができます。
このため、コンサートホールや録音スタジオでは、望ましい音響効果を得るために残響特性が慎重に設計されます。
天然のリバーブという言葉を現場で使うことがあります。
プラグインやデジタル処理で行うリバーブ処理も素晴らしいものになりますが、やはり音の力、音楽の神秘的な力を享受するためには、天然のリバーブ効果、自然界の法則を感じる、知る、体験することが最重要となります。
おそらく量子物理学的叡智を持っていたキリストであれば、この音の特性を最大限活用するための音響設計についてもしっていたはずですし、弟子に口伝していたはずです。
古来より続く教会の音響は音の力を増幅させるための空間装置として機能していることが多いに想像できるため、しっかりと研究し計算していく必要があります。
Curanz Soundsでは、通常のプラグインによる演算処理ではなく、これらセイビンの法則による教会の理想的な音響をシュミレートする計算をPythonなどを使って分析しながら、音の神秘の解明に取り組んでいきます。