万物は一つの根源的存在に由来する——この思想は、東西の哲学・宗教において深く根付いています。
その中でも「パンエンテイズム(万有内在神論)」と「アドヴァイタ・ヴェーダーンタ」は、一見似ているようでありながら、根本的な違いを持っています。
本記事では、両者の共通点と相違点を明確にし、それぞれの思想が何を意味しているのかを紐解いていきます。
パンエンテイズムとは?
**パンエンテイズム(Panentheism)**は、神と宇宙の関係を説明する哲学・神学的な概念です。
一般的な「汎神論(Pantheism)」が「神と宇宙は完全に同じものである」とするのに対し、パンエンテイズムは「神は宇宙に内在しつつ、それを超越する存在である」と考えます。
パンエンテイズムの主な特徴
- 神は宇宙に遍在するが、宇宙そのものと完全に同一ではない。
- 神は宇宙の内側にも外側にも存在し、超越的な側面を持つ。
- 物質世界も神の一部だが、神の全てではない。
- キリスト教神学、プロセス神学、スピリチュアリズムなどでよく見られる。
アドヴァイタ・ヴェーダーンタとは?
**アドヴァイタ・ヴェーダーンタ(Advaita Vedanta)**は、インド哲学の一派であり、ウパニシャッドを基盤とした一元論的思想です。
この学派の根本原理は「ブラフマン(Brahman)とアートマン(Atman)は本質的に一つである」というものです。
すなわち、個人の魂(アートマン)と宇宙の究極実在(ブラフマン)は、根本的に区別がなく、全ては同一の存在から成ると考えます。
アドヴァイタ・ヴェーダーンタの主な特徴
- 世界は「マーヤー(幻影)」であり、究極的には実在しない
- 個人の魂(アートマン)と宇宙の究極実在(ブラフマン)は同一である
- 悟り(モークシャ)によって「本来の自己(ブラフマン)である」と気づく
- シャンカラ(Adi Shankara)によって体系化された。
共通点と相違点
両者大きな違いがあることがわかりましたが、逆に共通点はどこにあるのか?疑問に思うかもしれません。
ここからは共通点をまとめ、相違点をもう少し明確に整理していきたいと思います。
共通点
- 宇宙の根源的な存在を認める:両者とも、宇宙は根源的な存在(神/ブラフマン)によって成り立っていると考える。
- 物質世界と精神の一体性:すべての存在は一つの源から生じるとする。
- 意識の重要性:観察者(人間や神)が宇宙の本質を決定するという思想。
パンエンテイズム | アドヴァイタ・ヴェーダーンタ | |
---|---|---|
宇宙の根源的存在 | 宇宙は神の一部であり、神は宇宙に内在する | 宇宙の究極的な実在はブラフマンであり、すべてのものはブラフマンの現れ |
物質世界と精神の統一性 | 宇宙全体が神聖であり、物質と精神は分かちがたい | 物質世界はブラフマンの幻影(マーヤー)であり、実体はブラフマンそのもの |
意識の役割 | 神は遍在し、人間を通して宇宙を体験する | 意識そのものがブラフマンであり、個々の自我が幻想である |
悟り(神との一体化) | 神との合一を目指す神秘主義的な道がある | 悟り(モークシャ)によって「自分がブラフマンである」と気づく |
パンエンテイズム | アドヴァイタ・ヴェーダーンタ | |
---|---|---|
宇宙と神の関係 | 神は宇宙に遍在しつつ超越的 | 宇宙は幻想であり、唯一の実在はブラフマン |
物質の実在性 | 宇宙は実在する | 物質世界は「マーヤー(幻想)」であり、究極的には実在しない |
神と個の関係 | 神と個は異なるが、相互に影響し合う | 個(アートマン)と神(ブラフマン)は完全に同一 |
悟りの概念 | 宇宙を通じて神を理解する | 幻想を超え、自分がブラフマンであると悟る |
過去の哲学者の立場
哲学者・宗教家 | パンエンテイズム | アドヴァイタ・ヴェーダーンタ |
---|---|---|
プラトン | ○(イデア論により、神は超越的な存在) | ×(世界は実在し、ブラフマンの概念とは異なる) |
ソクラテス | ○(善のイデアを通じて神を認識) | ×(個の魂が神と一体化する考えは持たない) |
イエス・キリスト | ○(「神はすべての中にある」という考え) | △(「私は父と一つである」という表現は近いが、世界を幻とは見ていない) |
釈迦(ゴータマ・シッダールタ) | △(縁起の法則により、万物は繋がっているが神は超越的ではない) | ○(涅槃=自己の本質を悟ることはアドヴァイタに近い) |
孔子 | △(「天命」の概念は神の遍在を示唆するが、超越的な神概念はない) | ×(個の道徳的修養を重視し、悟りを求める思想とは異なる) |
ラマナ・マハルシ | ×(神の超越を強調しない) | ○(自己探求により、アートマン=ブラフマンと悟る) |
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