どうしてこんなに「嫌われたくない」のでしょう

誰かの表情がふと曇っただけで「嫌われたかも」と胸がざわつく。

これは、人から拒まれることを生存の脅威と感じてきた、私たちの本能に根ざした自然な感覚です。

でも、その思いが大きくなりすぎると、相手の顔色ばかりうかがって疲れ、ほんとうは言いたかったことも言えず、気がつけば「自分らしさ」を見失ってしまいます。

誰にも嫌われていないのに、自分で自分を苦しめている。

それが「嫌われたくない」が止まらなくなった状態です。

称賛も非難も、ただ過ぎ去る風

二千五百年以上前、釈迦はこの苦しみのしくみを明快に説いています。

『増支部経典』の「世間の法の経」で、釈迦は心を乱す八つの「世間の風」を挙げました。

得ることと失うこと、名声と不評、称賛と非難、楽しみと苦しみ。

なかでも称賛と非難は、私たちの心を激しく揺さぶります。

称賛が生じたとき、学びのない凡夫は称賛に心を奪われ、非難を嫌悪する。このように是認と嫌悪に巻き込まれているので、その人は苦しみから解放されない。

出典: パーリ仏典『増支部経典』第8集6「世間の法の経」(AN 8.6)

褒められることに心を奪われることと、けなされることを怖がることは、じつは同じ根っこから生まれます。

どちらも「他人の評価」に心がくくりつけられている状態です。

他人の評価は変わりやすいもの。

そんな不安定な土台のうえに自分の安心を乗せようとすれば、揺れるのは当然です。

釈迦は、「これは過ぎ去るもの、変化するものだ」と正しく理解することこそ、苦しみから自由になる道だと教えました。

慈悲は、まず自分から

では、どうすればこの風にふりまわされずにいられるのでしょう。

鍵は「慈悲」です。

慈悲と聞くと「他者にやさしくすること」と思われがちですが、釈迦の教えでは、慈悲はまず自分に注ぐところから始まります。

『法句経』の「自己の章」に、こうあります。

もし自己を愛しいと知るならば、その自己をよく守れ。

出典: パーリ仏典『法句経(ダンマパダ)』第157偈(自己の章)

自分を大切に思うなら、まず自分を守りなさい。

これはわがままではありません。

自分という器が壊れてしまっては、誰かにやさしくすることもできないからです。

その守り方として釈迦が説いたのが、他者への慈しみを育てることでした。

「慈しみの経」では、こうも説かれます。

母が己が命をかけて独り子を守るように、そのように一切の生き物に対して、無量の慈しみの心を育てよ。

出典: パーリ仏典『スッタニパータ』第1章8「慈しみの経」(Snp 1.8)

わが子を守るような深い慈しみを、すべての存在に向けて広げていく。

その心のありようが、自分を守る確かなよりどころになるのです。

なぜでしょう。

他者への慈しみが育つと、「嫌われたかも」という恐れがすこしずつ小さくなっていくからです。

「好かれたい」は「自分がどう見られるか」に焦点があります。

「慈しみたい」は「相手の幸せを願う」ことに焦点があります。

この切り替えが、他人の評価に縛られていた心を、そっと自由にしてくれます。

今日からできる、自分を守る慈しみの小さな実践

むずかしい修行は必要ありません。

今日からできることを三つ、お伝えします。

ひとつめは、「私を嫌いになっても、私は私を嫌いにならない」と胸のなかでそっと唱えてみること。

誰かにどう思われるかより、あなたがあなたをどう思うかのほうが、ずっと大切です。

ふたつめは、誰かとすれ違うとき「この人が幸せでありますように」と、ほんの一瞬だけ願ってみること。

返事も反応もいりません。

くり返すうちに、他人の評価に揺れていた心がおだやかに定まってくるのを感じられるかもしれません。

みっつめは、誰かの言葉に傷ついたとき「これは風だ」と自分に言ってあげること。称賛も非難も通り過ぎる風。受け取らなければ、風はあなたを通り抜けて去っていきます。こちらの記事もご覧ください。人の言葉に傷ついたとき、受け流す心を育てる釈迦の言葉

よくある質問

Q. 嫌われたくないと思うのは、弱さなのでしょうか

A. いいえ、人とのつながりを大切に思う自然な感覚です。

それが行きすぎて自分を苦しめるときに、自分の心を慈しむ方向へ切り替えることが大切だと、釈迦は教えています。

Q. 自分に慈悲を向けるのは、わがままになりませんか

A. 自分を大切にすることと、わがままは別のものです。

『法句経』で「自己を愛しいと知るならば、その自己をよく守れ」と説かれるように、まず自分の心を守ることなしに、ほんとうの意味で他者にやさしくすることはできません。

Q. 嫌われたかもしれないと思ったとき、いますぐできることはありますか

A. まず大きくひと息ついて、「これは風だ。

通り過ぎていく」と自分に声をかけてあげてください。

他人の評価は移り変わるものだと知っているだけで、心の揺れは少しずつ小さくなっていきます。

あなたの心は、あなたが守っていい

「嫌われたくない」と思えるあなたは、それだけ人とのつながりを大切にできる、やさしい人です。

そのやさしさを、こんどは自分自身にも向けてみてください。

他人の評価という風にふりまわされず、まず自分に慈しみを注ぐこと。

それが、あなたの心を守る最もたしかな方法だと、釈迦は二千五百年以上前に教えてくれていました。

「私を嫌いになっても、私は私を嫌いにならない」。

今日はこのひとことを、お守りにしてみませんか。

もう少し自分をやさしく見つめたい方は、許せない思いに縛られるとき、慈悲が解き放つ心の自由もあわせてお読みいただけます。また、数秘で今日のヒントから、あなただけの今日のメッセージをのぞいてみるのもおすすめです。