「場面」とは、あなたが選んでいる一瞬の色
「場面」というと芝居の一幕を思い浮かべるかもしれません。
でも、ここでいう場面はもっと身近。
朝、目が覚めて最初に感じる気配。
通勤の車窓から見える空の色。
同僚との何気ないやりとりの空気感。
そのひとつひとつが、すべて場面です。
そして場面には色があります。
灰色がかった重たい場面もあれば、するっと体が動く軽やかな場面もある。
同じ状況でも場面の色はその日によって変わる。
なぜか。
それは、場面が外側にあるのではなく、あなたのなかで選ばれているからです。
子どものころを思い出してください。
雨の日、大人は「憂うつだ」と眉をひそめるのに、あなたは長靴で水たまりを歩くのが楽しかった。
同じ雨なのに、選んでいる場面が違う。
雨はただの雨で、どんな色をのせるかは、つねにあなたの側にあります。
場面が「固定される」しくみ
では、なぜ「変えたいのに変えられない」と感じるのでしょう。
それは、ひとつの場面を「これが現実だ」と握りしめているからです。
「私の職場はいつもこうだ」と思った瞬間、その場面はあなたのなかで固定されます。
昨日もそうだった、今日もそうだ、明日もそうに決まっている。
この繰り返しで、場面はしだいに動かせない現実へと変わっていきます。
脳は、あなたが強く注意を向けるものを大切な情報として拾い、関連する証拠をどんどん集めてきます。
「職場はつらい」と思えば、つらい証拠ばかりが目につく。
このしくみは心理学者ウェグナーが指摘した皮肉過程理論にも通じます。
場面が固定されるのは、まわりが動かないからではありません。あなたが「これしかない」と握りしめているから。握りしめる力こそが、場面をその場所に留めてしまうのです。この視点は「いつでも演目を変えられる」視点の育て方でもふれています。
選び直しは「知る」ことから
では、握りしめた手をどうほどくか。
答えは意外なほど簡単です。
「ああ、いま私はこの場面を選んでいるんだな」と、ただ知ること。
場面を変えようと努力する必要はありません。
いま自分がどんな色の場面を生きているかに、そっと気づく。
それだけで場面はもう固定ではなくなります。
たとえば、職場でため息をついた瞬間、「いま私は『疲れる職場』という場面を選んでいる」と知る。
否定しなくていい。
変えようとしなくていい。
ただ知る。
その知覚が、握りしめていた手を一本ずつひらいていきます。
これは「ポジティブに考え直す」こととは違います。無理に明るい場面を上書きするのではなく、いまの場面を「選んでいるもの」として認識する。その認識が、つぎの場面を選び直す隙間をつくるのです。頭で知るだけでなく体で感じることの大切さは、「感じる」で深めるスイッチの入れ方も参考にしてください。
今日からできる、場面を選び直す小さな実践
場面の選び直しは、大きな決断より、日々の小さな気づきから始まります。
ひとつめ。
一日のなかで、ふと「あれ」と感じる瞬間を探してみてください。
ため息が出たとき。
イライラしたとき。
逆に、ほっとしたとき。
その一瞬をとらえて、「いま、私はこの場面を生きている」と心のなかでつぶやくだけ。
これが最初の一歩です。
ふたつめ。
重たい場面にいると気づいたら、目を閉じて、いま体のどこに力が入っているかを感じます。
肩ですか、あごですか。
息を吐きながら、その力をほんの少しゆるめてみる。
体の力みがほどけると、場面の色も少しずつ変わっていきます。
みっつめ。
一日の終わりに「今日、私はどんな場面をいちばん長く生きていたか」を振り返ります。
正解や反省はいりません。
今日の自分の場面を観客席から眺めるように。
その眺める行為が、あしたの場面を選び直す余白になります。
よくある質問
Q. 「場面を選び直す」という考え方は、現実逃避ではないですか
A. 現実逃避は「いまの場面から目をそらす」ことですが、場面を選び直すのは「いまの場面をはっきり認識したうえで、別の色を選ぶ」ことです。
逃避ではなく、より意識的な選択といえます。
Q. 深刻な状況でも、場面は選び直せますか
A. 深刻な状況ほど「これは変えられない」という握りしめが強くなります。
まずは「変える」ことを目指さず、「いま私はこの場面を生きている」と知ることから始めてみてください。
知覚そのものが、かたくなった場面に小さな風を通します。
Q. 場面を選び直しても、すぐに元に戻ってしまいます
A. それは自然なことです。
新しい場面に慣れるまでは、古い場面の引力を感じるもの。
戻ったと感じたら、それを「失敗」ではなく「気づいた」ととらえてください。
戻るたびに選び直す。
その繰り返しが、新しい場面をあなたのレパートリーにしていきます。
毎朝、目が覚めたとき、あなたの前には無数の場面が広がっています。
今日はどんな色の場面を選びますか。
答えはいつも、あなたの手のひらのなかにあります。