帰り道、頭のなかで繰り返すあのひと言

夕方、退勤のチャイムが鳴って、ようやく一日が終わります。

なのに、頭のなかでは昼の会議のひと言が、まだぐるぐると回り続けています。

「その進め方、もう少し考えたほうがいいね」

上司は、ただのアドバイスのつもりだったのかもしれません。

でも、そのたったひとことだけが、帰りの電車のなかでも、夕飯の支度をしているあいだも、ふとした瞬間に蘇ってきます。

今日は、ほめられたこともあったのに。

無事に終わった仕事もあったのに。

それなのに、夜になっても思い出すのは、あの否定的なひと言だけ。

こんな夜は、ありませんか。

悪い言葉は、よい言葉より何倍も重く残る

どうして、よい言葉は消えて、悪い言葉だけが残るのでしょうか。

それは、あなたの心が弱いからではありません。

人の心には、悪いことほど重く受け止めてしまう「ネガティビティバイアス」という傾向が、生まれつき備わっています。

ネガティビティバイアスとは、よい情報より悪い情報のほうを、強く、長く、記憶に刻む心の仕組みのことです。

心理学では、否定的な言葉や出来事は、同じ強さの肯定的なものより、ずっと強い印象を残すと考えられています。

何倍も重く残る、というわけです。

これは、昔の人が生き延びるために必要な力でした。

危険や脅威をいち早く、深く覚えておくほうが、命を守れたからです。

だから、あなたの心は今も、よい知らせより悪い知らせに、つい目を向けてしまいます。

そのひと言は、今日の「すべて」ではない

ここで、ひとつ見方を変えてみましょう。

あの上司のひと言は、たしかに今日の出来事のひとつです。

でも、それが今日の「すべて」ではありません。

悪い言葉は何倍にも重く見える。

でも、重く「見える」だけで、本当に重いわけではないのです。

心のフィルターが、よい言葉を薄めて、悪い言葉を濃く映しているだけ。

今日の一日には、ほめられたこと、やり遂げたこと、助けてもらったことが、たしかにありました。

仕組みを知るだけで、そのフィルターは少し外れます。

「ああ、今、悪い言葉だけを大きく映しているんだな」と気づく。

それだけで、握りしめていた力が、そっとゆるみます。

力みがゆるむと、心のレンズは自然と、今日あったよかったことに戻っていくのです。

評価に対する力みがほどけていく様子は、「認められたい」の力みが消えると、評価は自然とやってくるでもお伝えしています。がんばりが見えないと感じる夜には、頑張りが評価につながらない夜にも、よろしければ。

今日の実践:よい言葉を、ひとつだけ思い出す

今夜、眠る前に、ひとつだけ試してみてください。

今日、うれしかった言葉や、うまくいったことを、たったひとつでいいので、思い出してみるのです。

「お疲れさま、助かったよ」 「この資料、わかりやすかった」

たったひとつで十分です。

悪い言葉は何倍にも膨らんでしまうぶん、よい言葉は、あなたが意識して取り出さないと、すぐに薄まってしまいます。

だから、眠る前にひとつ、よい言葉をそっと手に取ってみる。

それだけで、今日という日を、少しやわらかな見方で終えられます。

よくある質問

Q. 悪い言葉ばかり思い出してしまうのは、私の心が弱いからですか

A. いいえ。

悪い言葉ほど重く受け止める「ネガティビティバイアス」は、人に広く備わった心の仕組みです。

心の弱さではなく、生き延びるために身についた自然な傾向です。

Q. ネガティビティバイアスは、直せるものですか

A. 直すというより、仕組みを知って距離を取るものです。

悪い言葉が大きく映っていると気づくだけで、心のフィルターは少しずつ外れていきます。

よい言葉を意識して取り出す習慣が助けになります。

Q. 上司のひと言がどうしても気になるとき、どうすればいいですか

A. 無理に忘れようとせず、まず「悪い言葉が大きく映っている」と認めてみてください。

そのうえで、そのひと言と同時に、今日のよかったことをひとつ思い出します。

見方のバランスを、そっと整えるのです。

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