なぜ買い物のあとに苦しくなるのか
二千五百年以上前、釈迦は人の苦しみを「四つの真理」で見抜きました。 苦しみがあり、その苦しみには原因がある。 原因が消えれば苦しみも消える。 そこへ至る道がある、と。
買い物のあとの罪悪感も、この型で読み解けます。 まず「苦」があります。
その原因は何でしょうか。
罪悪感を生む「渇愛」という渇き
お金を使うとき、心の動きをよく見てみると、 二つの違う欲があると気づきます。
ひとつは、生きるための素直な必要です。 お腹がすいたから食べ物を買う。 寒いから服を買う。 からだと暮らしを支える、自然な欲です。
もうひとつは、釈迦が「渇愛」と呼んだ、心の渇きです。 「これを持てば満たされる」 「もっと、もっと」と、 満たしても満たしても、また湧いてくる喉の渇きのようなもの。
この渇きに動かされて買ったものは、 手にした瞬間こそ嬉しくても、 すぐに「もっと」が顔を出します。 そして残るのは、あの罪悪感です。
『法句経』にこう説かれています。
金貨の雨が降ろうとも、欲望が満たされることはない。 欲望の味は短く、苦しみを生むと知る人は、賢者である。
出典: 『法句経』第186偈(Max Muller訳, The Sacred Books of the East, Vol. X, 1881年)
欲望は、満たそうとすればするほど膨らむ性質を持っています。 だから「買う」ことで渇きを癒そうとしても、 かえって渇きを強くしてしまうのです。
しかも私たちは、その渇きと「自分」を重ねがちです。 「こんなに欲しがる自分はだめだ」と。 罪悪感が、渇きの上にもう一枚重なります。
中道がほどく、消費と執着の結び目
では、どうすれば抜け出せるのでしょうか。 釈迦の答えは「中道」です。
釈迦は最初の説法で二つの極端を避けるよう説きました。 快楽にふけることと自分を痛めつけること。 そのどちらでもない道、それが中道だと。 (『相応部』SN 56.11「ダンマチャッカパヴァッタナ経」)
消費に置き換えてみましょう。
「買いたい」を無理に抑え込むのは、中道ではありません。 我慢すればするほど、反動が来るからです。 かといって欲のままに買い続けることも違います。 渇きは決して癒えないからです。
中道の消費とは、買う前に 「これは必要か、それとも渇きか」と 自分の心にそっと問いかけることです。 そして、どちらであっても自分を責めないこと。
渇きから買ったとしても、 それはあなたの「弱さ」ではありません。 二千五百年以上前から、人がみな持っている心のしくみです。 責める代わりに「ああ、いま渇いていたんだな」と気づく。 その気づきが、消費と執着の結び目をそっとほどき始めます。
今日からできる、三つの小さな実践
ひとつめは「三呼吸の間」を置くこと。 何かを買おうと思ったとき、 レジに進む前、あるいはカートに入れる前に、 三回だけ呼吸を数えてみてください。 たった十秒の間が、渇きの勢いをなだめてくれます。
ふたつめは、買ったものを「迎える」こと。 罪悪感で目をそらすのではなく、 買ったものを手に取って、 「これからよろしく」と心のなかで言ってみてください。 消費をただの「お金との別れ」で終わらせず、 暮らしに迎え入れる意識を持つこと。 その瞬間、お金は「失ったもの」から「選んだもの」へと変わります。
みっつめは、一日の終わりに 「足りているもの」をひとつ数えること。 新しいものを追う前に、 すでに手のなかにあるものを思い出してみてください。 渇きではない、暮らしを支えるお金の使い方に、 そっと視点が戻ります。
罪悪感は、あなたが「ちゃんと生きたい」と 思っている証でもあります。 だから責めなくていいのです。 消費を渇きから切り離し、 暮らしを支えるやさしい行為に変えていく。 その一歩を今日から始めてみませんか。
お金と心に向き合うヒントをもっと知りたいときは、 「お金の不安が離れないあなたへ、少欲知足が教える心の豊かさ」もお読みください。 「執着を手放せないあなたへ」も、あわせてどうぞ。
よくある質問
Q. 必要なものを買っても罪悪感がわくのはなぜですか
A. 買うときに「これで満たされたい」という期待が混ざると、期待が外れたときに罪悪感へ変わるからです。
必要な買い物には「暮らしを整える」という目的だけで向き合ってみてください。
Q. 衝動買いをやめるには、どうすればいいですか
A. 「三呼吸の間」を習慣にしてみてください。
買う前に三回、呼吸を数えるだけで衝動の勢いが落ち着きます。
それでも買いたければ、それは必要な買い物かもしれません。
Q. 節約しすぎるのも中道から外れますか
A. はい。
自分を痛めつけるような節約は、欲を断ち切ろうとする極端で中道ではありません。
必要なものには心よくお金を使い、渇きに動かされる買い物だけを見直すバランスが中道です。