ふとした瞬間に、よみがえるあの言葉

あの人に言われた、たったひとこと。

忘れようとしても、ふとした瞬間に、その言葉がよみがえる。

夜、布団に入ったとき。

仕事の合間。

何気ない日常のなかで、その声が頭のなかで繰り返されます。

時間は経っているのに、胸の奥にはまだ、小さなしこりのようなものが残っています。

言葉にできなくても、確かにそこにある。

それがわだかまりです。

あなたが弱いからではありません。

心のしくみが、そうさせているのです。

心は「彼は私にこう言った」と繰り返す

なぜ、あの言葉は忘れられないのでしょう。

それは、心がその言葉を、何度も思い返しているからです。

二千五百年以上前、釈迦はこの心の動きを見抜いていました。

『法句経』という古くから伝わる経典に、こうあります。

「彼は私を罵った、私を打った、私に勝った、私から奪った」。そんな思いを抱き続ける人には、怨みはいつまでも止みません。

出典: 『法句経』第3偈(Max Müller訳, The Sacred Books of the East, Vol. X, 1881年)

「彼は私に、ああ言った」。

その思いを、心のなかで繰り返すほど、怨みは止まらなくなる、というのです。

あの言葉が忘れられないのは、記憶が消えないからではありません。

あなたが、知らず知らずのうちに、その言葉を思い返し続けているからなのです。

思い返すたびに、その言葉は、少しずつ、あなたのなかに根を下ろしていきます。

そして、わだかまりへと育っていくのです。

怨みは、怨みでは鎮まらない

では、このわだかまりは、どうすればほどけるのでしょう。

怒りで相手を責めても、その言葉をなかったことにしようとしても、かえって心は苦しくなります。

釈迦は、こうも説いています。

怨みは、怨みによって鎮まることは決してありません。怨みは、慈しみによってこそ鎮まります。これは古くからの変わらない道理です。

出典: 『法句経』第5偈(Max Müller訳, The Sacred Books of the East, Vol. X, 1881年)

怨みに怨みを重ねても、わだかまりはほどけません。

それをほどく鍵になるのが、慈しみの心、すなわち慈悲なのです。

慈悲と聞くと、「相手を許さなければならない」と思う方もいるでしょう。

でも、慈悲の始まりは、相手ではありません。

まず、傷ついたあなた自身へ向けることなのです。

まず自分を慈しみ、それから相手を見つめる

あの言葉に傷ついた、あなた自身を、まず慈しんでください。

「よく、ここまで耐えてきたね」と、自分に声をかけること。

それが、慈悲の一歩目です。

自分を責めるのではなく、傷ついた自分を、そっと抱きしめるのです。

そのうえで、少しだけ、相手のほうへ目を向けてみます。

あの言葉を放った人は、そのとき、どんな心だったのでしょう。

もしかすると、その人自身も、苦しんでいたのかもしれません。

余裕がなくて、つい、きつい言葉になってしまったのかもしれません。

相手を責めるでもなく、許すでもなく、ただ「その人にも、その人なりの苦しみがあったのかもしれない」と、そう思ってみる。

それだけで、わだかまりは、少しずつ、やわらかくなっていきます。

今日の小さな実践

今日から試せる、小さな実践をひとつ。

あの言葉がよみがえってきたら、胸のあたりに手を当てて、ひと呼吸します。

そして、心のなかで、そっとこう唱えてみてください。

「私も、あの人も、それぞれに苦しみを抱えてきた」。

このひと言を唱えるだけで、思い返し続ける心が、ほんの少し、おだやかになっていきます。

何度でも、くり返して構いません。

わだかまりは、一日ではほどけないかもしれません。

でも、自分を慈しみ、相手の苦しみに目を向けることを、少しずつ重ねていきます。

あの言葉は、いつの間にか、あなたを縛らなくなっています。

言葉に傷ついたときの受け流し方は、人の言葉に傷ついたとき、受け流す心を育てる釈迦の言葉 もあわせてどうぞ。許せない思いに苦しむ夜は、許せない思いに縛られるとき、慈悲が解き放つ心の自由 がお役に立ちます。

よくある質問

Q. あの言葉を忘れようとすればするほど、思い出してしまいます

A. 忘れようとする力みが、かえってその言葉を呼び寄せてしまいます。

思い出してしまった自分を責めず、「また思い返しているな」と気づいたら、胸に手を当ててひと呼吸してみてください。

気づくこと自体が、ほどく第一歩です。

Q. 相手を慈しむなんて、とてもできません

A. 無理に相手を慈しもうとしなくて大丈夫です。

慈悲の始まりは、まず傷ついた自分自身を慈しむこと。

自分への慈しみが育ってから、相手を考える余裕が生まれてきます。

順番を急がないことが大切です。

Q. わだかまりは、時間が経てば自然にほどけますか

A. ただ時間が経つだけでは、思い返すたびに根を張って、かえって深くなることがあります。

時間の経過に加えて、自分を慈しみ、相手の苦しみに目を向ける小さな実践を重ねます。

そうすると、わだかまりは少しずつやわらいでいく傾向があります。

今日は、あの言葉がよみがえってきたら、胸に手を当てて、ひと呼吸だけ。それだけで、あなたの心は少し、軽くなります。もっとやさしいヒントがほしい夜は、数秘で今日のヒント をそっとのぞいてみてください。